◎祥 法 牛
1 堅固なる大地をこそぐ秋出水 【歌子】
法 駒
2 月光を五右衛門風呂に入りて浴ぶ 【祥雲】
3 マンションの二階を覗く秋の月 【法被衣】
◎駒
4 新蕎麦やバイク十台並び停め 【牛郎】
5 虫の声影も道連れ通夜帰り 【あらまち一駒】
6 お八つ時匂う新蕎麦もり一つ 【あらまち一駒】
7 ロッキングチェア出したるままの縁の月 【牛郎】
8 「新蕎麦」の文字に捜せし駐車場 【法被衣】
9 大釜で新蕎麦ゆがきし母の背な 【祥雲】
牛
10 三たての新蕎麦を待つ長い列 【歌子】
祥 牛 駒
11 月光に「お迎えお越し」という媼 【歌子】
法
12 曳っかわし囃す連衆の秋の山車 【祥雲】
13 うそ寒やうたた寝の夕仕舞いけり 【法被衣】
14 冷凍の秋刀魚彩る旬の卓 【牛郎】
15 隠れんぼ必ず逢いに月の道 【あらまち一駒】
◎法 ◎牛 駒
16 倒れてもうち伏せはせぬ秋桜 【歌子】
◎歌
17 虫の音と爽気の中を七千歩 【祥雲】
祥 歌
18 虫食いの桜紅葉の空の孔 【法被衣】
祥 歌
19 年上のやうな年下竹の春 【牛郎】
歌
20 芒野や老いの手だらけ蜻蛉舞う 【あらまち一駒】
★ 選句一言選評・感想
★
①祥雲選【◎1,11,18,19】
◎1 堅固なる大地をこそぐ秋出水
球磨川や最上川の驚異的な出水を想像させる良句です。ただし「こそぐ」が少し気にかかります。
11 月光に「お迎えお越し」という媼
かぐや姫の物語を彷彿とさせる句で、媼の優しい心根が伺える良句です。
18 虫食いの桜紅葉の空の孔
美しい桜紅葉に虫食いの孔があることを詠んだ句。「空の穴」が効いています。
19 年上のやうな年下竹の春
「竹の春」は斬新で、今年の竹がもう親を越すほどに伸びてしまっているなあという感慨が込められた良句です。
★
②歌子選【◎17、18、19、20】
◎17 虫の音と爽気の中を七千歩
秋の音や爽やかな秋の空気を満喫しながら7千歩も歩かれるその健脚ぶりがうらやましいです。
18 虫食いの桜紅葉の空の孔
虫食いと空の穴という、詩から程遠いイメージの言葉を「桜紅葉」の持つ美しい季語が、見事な絵に仕上げています。
19 年上のやうな年下竹の春
ほんと、近くに実際にこんな子がいます。伸びやかな成長をする子たちにたいして、季語の竹の春が素晴らしくかみ合い生きています。
20 芒野や老いの手だらけ蜻蛉舞う
芒野の芒に、老いの手を重ねるところが、ご老人を相手の仕事をされている作者らしい。芒野も蜻蛉も季語ですが、老いの手のごとき芒野がクローズアップされていて、季重なりが気になりませんでした。
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③法被衣選【1,2,12,◎16】
1 堅固なる大地をこそぐ秋出水
経験した事のない災害が次々と異常気象が通常になりつつありそうです。
2 月光を五右衛門風呂に入りて浴ぶ
静寂の中での一人きりの湯あみ。「入りて浴ぶ」の語句はなくても内容は通じるのでは?
12 曳っかわし囃す連衆の秋の山車
言葉のリズムがとても心地よく、秋祭りの賑やかな光景、お囃子の音も聞こえてくるようです。
◎16 倒れてもうち伏せはせぬ秋桜
コスモスは細いのに上に上に伸びて、倒れてしまうけれど、そこからまた天を目指して花をつけています。そんな観察眼と描写が巧みです。
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④牛郎選【1、10、11、◎16】
1 堅固なる大地をこそぐ秋出水
経験のない大雨の被害ニュースに気が滅入ります。
10、三たての新蕎麦を待つ長い列
本場の人気店恒例の風物詩ですね
11、月光に「お迎えお越し」という媼
月見の風習なんでしょうね残したいものです。
◎16、倒れてもうち伏せはせぬ秋桜
ひ弱そうに見えても逞しく生きる勇気を感じています
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⑤ あらまち一駒選【2,◎4,11,16】
2 月光を五右衛門風呂に入りて浴ぶ
野趣満載の夜で気持ち良さそう
4 新蕎麦やバイク十台並び停め(◎)
バイク野郎が旨そうに新蕎麦に喰らい付いている様子が想像される
11 月光に「お迎えお越し」という媼
長生きし過ぎたお迎えに来てと月に願う老婆の姿が美しい
16 倒れてもうち伏せはせぬ秋桜
秋桜のしなやかな強さを魅力的に歌ってる。