●つだみつぐさん選【6,19,26,38,51,57,58】
26 きょうよりはきみとふたりで落花生
「愛する二人が一緒に暮らしはじめた」とも読めますが、
わたしは、子供たちが巣立って、あらためて二人が向き
合っているというように読みたいと思います。
「今日」という言葉まで、あえてひらがなにすることで、
二人でいることのあたたかさ、やさしさが伝わってきます。
テーブルのまん中に中くらいのボールを置いて、落花生の
殻を二人ともその中に入れていく、殻がだんだんボールの
中にうずたかくたまっていく。
二人で積み上げていく歳月のように。
51 星月夜少し切り取り皿に盛る
意表を突く句。
食べるの?
デザートに冷たいものでもいかが、って?
甘いのかな。
19 雀群れ淑女も群れて草紅葉
雀と淑女たちの共通点は、ピーチクとさえずり続けて倦まないこと
でしょうか。それと、群れること。
女性の句でしょうか。だとしたらその群れの中にいる自分を含めて、
明るい草原の午後に、雀も草も、そこにあるすべてを「いいじゃない、
それで」って、肯定しているんですね。
38 落花生期待通りの中身かな
わたしと歯医者さんとの会話
「3日ほど、固いものを噛まないようにして下さい。」
「え、落花生もダメですか?」
「そんなにお好きなんですか?」
「はい。毎日。じつは、わたしの体組成は7%が落花生で出来ていて、
これを維持するのに一日28グラムの落花生が必要なんです。」
そんなふうだから、落花生をむく時、むっちり太った殻の中にむっちり
太った中身が入っているとわたしは幸せな気分になります。
ぜったい、太った方がおいしい。
でも、たまに裏切られて悲しい気持ちになります。
むいてみるまで中身を予測できないことって、あるんです。
57 振り向けばたれの呼ぶ声金木犀
誰かが自分を呼ぶ。振り返ると誰もいない。ただキンモクセイがあって、
急に、その香りに気づく。わたしを呼んだのはキンモクセイ?
「わたしに気づいて」って、言ったの?
すがすがしいけれど暖かい余韻が残りました。
耳・目・鼻。五感のうち、3つまでも駆使した句ですね。
58 秋の夜を埋め尽くしてや星の声
これも意表を突かれました。
何の音もしない深夜に、空を埋め尽くす無数の星たち、みていると
星たちは小さな声でささやき合っているような気がしてくる。
なんと言い合っているのかわからないけれど、がやがやざわざわと。
視覚から聴覚へ。
6 肌寒や一人いる家の広きこと
うん。広いし、寒い。
一人の夜を誰かがいる夜と比べると、気温が平均1.2℃低くなります。
その状態が継続すると3ヶ月に0.1℃の割合で夜間の気温が下がり続け、
ついには心が凍ることがあるので注意が必要です。
♪♪・・・・♪・・・・・♪♪・・・・♪・・・・・・♪・・・・・・・♪……♪・♪・・・・・・・♪……♪
つだみつぐさんの今月の作品
2.肌寒や中島みゆきの振られ歌 【つだみつぐ】
15.鍬置いて煙草一服草紅葉 【つだみつぐ】
28.ねえそれでどうなったのと落花生 【つだみつぐ】
41.おのづから声をひそめて星月夜 【つだみつぐ】
53.耳にふと甦る声十三夜 【つだみつぐ】