歌子選 【4、7、15、20、39、51、62】
4 追伸に二行を足して肌寒し
いただいた手紙ともとれるが、文法的にみて、こちら
からの手紙。いただいた手紙なら、もっとすとんと胸に
落ちるような気がしたが、きっと何か断りの内容なのだ
本文にストレートに書けないので、さらっと追伸にかき
たしている。そんな自分への苦い思いが、肌寒しと重なる。
7. 肌寒き朝に家猫伸びひとつ
家猫がのびをしている何気ない句だが、肌寒きとあるのに
なぜかぬくぬくと幸せなあったかい空気が伝わってくる。
室内があったまらないと、我が家の猫はこの季節、布団から
出てこない。きっと床暖のあるあったかい家なのだ。
15 鍬置いて煙草一服草紅葉
農作業を終えて、作業着の胸ポケットから、煙草を一本取り
出してふ~~~っと紫煙をくゆらせている農夫の姿が目に浮かぶ。
「鍬を置いて」と、あえて鍬を出したところに、農業生産者である自負
と誇りが感じられ、みなれているはずの草紅葉に眼をやったところに、
創造主の加護のもとにある感謝と平和を感じさせる。
20 石垣にくの一忍法草紅葉
石垣と石垣の間の草紅葉をくの一忍法とは、なかなか
思いつかない。おもしろい。石垣の草紅葉をみるたびに
この句を思い出しそう。
39 切り株に夜露宿して星月夜
夜だから夜露は当たり前なのだけど、「夜露宿して」が
たまらなく美しい表現で惹かれた。
51 星月夜少し切り取り皿に盛る
星月夜を切り取るとは、ちょっと奇抜な表現だが
皿に盛ったのは、いろんな具がちりばめられたピザかしら
それとも、いくらや卵やさいのめ切りのサーモンをちらした
ちらし寿司かも。あー食べたい。
62 きのこ採り見つけて声の押黙る
きのことりの心境がわかるようで、ふふふって笑える。
きのことりの心境がわかるようで、ふふふって笑える。
マイタケの(いやなんでもいいんだけど)大きな塊を見
つけてしまったのだ。思わず、息を飲み叫びたいのをぐっと
噛み殺して、採取しているそんな姿が目に見えるようだ。
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歌子の今月の作品
6.肌寒や一人いる家の広きこと
19.雀群れ淑女も群れて草紅葉
32.黙々と夫の背中や落花生
45.幾万のみたまさざめく星月夜
57.振り向けばたれの呼ぶ声金木犀