●つだみつぐさん選 【8,9,17,32】
8 絡ませた指が語らふコートかな
男性が着るコートのポケットに、女性がかじかむ手を入れる。
ポケットの中で二人の指が絡む。
いいなあ。
17 何時かまたコートに包む想いかな
レストランを出るとき、コートを受け取る。
「いつかまた会えますよね?」と言おうとして、言えない。
ほんとうはこのまま一緒にいたいことを知られてしまいそう
だから。
そして黙ってコートを着る。
もう、会えないのかしら。
コートの襟を立てて一人で歩いて行くのかしら。
32 子や孫に残す原発もがり笛
「もがり笛」という季語をごく最近知りました。歳時記で。
(師匠である母から、「まず歳時記を全部読むこと」と
うるさく言われています。)
その時わたしはこう思いました。
この季語をわたしが使うことはないだろう。また、この季語を使った句に
共感することもないだろう。竹で編んだ囲いを風が通る音なんて聞いた
こともないし。
でも、この句の場合はなんだかぴったりする気がします。
たぶん、「子や孫に残す」という時点で、写生でなく感慨を
詠んだ句になっているからじゃないでしょうか。
淋しく荒涼とした心象風景。
子供たちのしあわせをこれほど願ってきたのに、なぜわたし
たちは、処理する方法さえなく二万年以上管理し続ける危険
な物質を未来に残してしまうのだろうか。
9 行く先の見えぬ原発霧ぞ濃き
これもつらく淋しい句ですね。
「霧ぞ濃き」はちょっとはまりす
ぎの気がしますが。
「行く先が見えない」ことの説明になっちゃう。
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つだみつぐさんの作品
7 息白く母たちの旗反原発 【つだみつぐ】
19 反省会遅刻しそうな落葉径 【つだみつぐ】
31 外套に孤独を包む家路かな 【つだみつぐ】